コラム

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『自分の歯を移植に使う自家歯牙移植』 〜インプラントの前の提案〜

抜歯が必要となった時、多くの場合、ブリッジ(左右の歯を使って被せる)・入れ歯・インプラントの選択肢が挙げられると思います。
歯を削るのも抵抗があるけれど、インプラントは費用も期間もかかるから難しいと思われる方も多いのではないでしょうか。

そんな時、条件が整えば、抜いたところに自分の他の歯を移植するという自家歯牙移植という方法があります。
移植の条件や、メリット・デメリットについてお伝えしていきます。

 

⑴移植とは

歯の移植とは、虫歯や歯周病などでやむを得ず抜かなくてはいけなくなった歯の代わりに、違う歯を移し入れることです。

多くの場合、親知らずを使います。

理由として、日本人は比較的顎が小さいため、親知らずがきれいに生え切るスペースが足りないことが多く清掃が難しかったり、上は生えていてもそれに噛み合う下の歯は横向きに生えてしまって機能しない状態(使っていない状態)のことが多いためです。

また、親知らずは他の歯に比べて生えるのが最も遅く(20歳前後に生えることが多い)、比較的健康な状態で維持されていることが多いのも理由の一つです。

 

 

⑵保険で移植ができる条件

・移植に使用できる健康な親知らずが残っていること

・抜歯した同日に移植を行うこと

 

 

⑶移植のメリット・デメリット

①メリット

・自分の使っていない歯を有効的に使える

・インプラントやブリッジをする時期を遅らせることが出来る

 →移植した歯がダメになった時に、改めてインプラントなどの次の選択肢に移行できる

・他の歯と同じように歯ブラシができる

・周りの歯を削らないで済む

・しっかりと噛める

・保険適用の場合、比較的安価(5000〜10000円)

 

②デメリット

・外科手術が必要

 →抜く歯と親知らずのサイズがあっていない場合、骨を削る必要がある

・うまく定着しない可能性もある。

 →感染が起きたり、根の周りが吸収してくる外部吸収などの症状が出ることがある。

 

 

⑷移植が成功しやすくなる条件

・体が健康

 →栄養が足りていて、治癒力が高い方が定着しやすいため、年齢も若い方が成功率は上がります。

・歯根膜がしっかり残っている

 →根っこの周りを覆うようについている歯根膜(歯周靱帯)が健康な状態で多く残っていると定着率がかなり上がります。

・口腔内が清潔

 →せっかく移植した歯も周りに汚れが溜まりやすい状態だと、感染を起こし体が異物として認識され、体が排除しようとする可能性が高まります。

・親知らずの根っこが真っ直ぐ

 →親知らずは複雑な形をしていることが多く、移植後に必要となる根管治療(神経の治療)をする際に、その形によって難易度が左右されます。
真っ直ぐな根っこの方が、移植時にも入りやすく、その後の治療も容易になるため成功率が上がります。

・移植した歯が安静な状態

→移植した直後は、まだ移植した穴と歯が完全にフィットしていないため、動きやすい状態です。その歯がなるべくぶつかって揺れるのを防ぎ、安静な状態でいられると定着率が上がります。

 

 

⑸どれくらいもつ?

移植の成功の基準によって、そのもちの長さ(生存率)は変わります。

骨と歯が癒着(歯根膜と言われる歯の周りの靱帯が剥がれてしまったりすると起こる)した場合でも、『移植した歯が抜け落ちない』という観点からすると、5年生存率は90%(Tsukiboshi M,2002)です。

そのほか5年生存率が80%、10年生存率が約70%という論文も出ています。(Schwartz 1985:伊藤2012)

つまり5年は多くの場合もち、10年となるとインプラントの方が生存率が高いと言えます。

しかし、前述したように移植した歯がダメになった場合の次の選択肢としてインプラントを考えられるという意味で、移植を検討する価値があると思います。

 

 

⑹治療の流れ

①抜歯と移植

まず口腔内の環境が整った(清潔かどうかなど)ら、ダメになった歯の抜歯と親知らずの移植を行います。

その際、歯が動かないように縫合糸や接着剤などで固定します。

 

②抜糸・消毒

約1W後に縫った糸を外します。

 

③根の治療

親知らずは一度抜いているので、根本で神経が切断されます。そのため、移植後約3W後に中の神経をきれいにする治療を行なっていきます。

きれいになったらお薬をつめ、被せられるように形を整えます。

 

④仮歯の作成

3ヶ月以降に仮の歯で問題なく噛めるかどうか確認していきます。

 

⑤被せ物の作成

4ヶ月以降に型取りをして被せ物を作成していきます。

 

 

⑺まとめ

条件が整えば成功率も高い移植は、抜歯の時の良い選択肢となるでしょう。

保険で可能なものは限られてしまいますが、保険外でできる場合もあるので、迷われている方は是非一度相談してみてください。