歯周病は単純に歯が抜けてしまうだけの病気ではありません。
放置しておくとお口の問題だけでなく全身の健康とも大きく関わりがあることがわかってきています。
長く自身の歯でおいしく食事をとり、健康寿命をのばすために、なぜ歯周病は予防や治療をしっかりした方がいいのかをお伝えできればと思います。
目次
⑴歯周病菌がどうやって悪さするのか?
現在3つの仮説が議論されています。
①歯周病菌が血液を介して全身へ
歯茎から出血する状態は毛細血管が傷ついている状態で、そこから菌が侵入し、血液を介し全身へ運ばれることによる体の防御反応によるもの。
②菌が出す炎症性物質が血液を介して全身へ
歯周病菌により攻撃されている組織では、炎症性サイトカインと呼ばれる物質が産生され、これらが血液を介して全身へ運ばれることにより起こるもの。
③口から食物などと共に飲み込まれた菌が、腸内で影響を及ぼす
歯周病が進行していると、常にたくさんの歯周病菌が食事や唾液と共に飲み込まれます。
それが腸内の菌のバランスを崩し、腸の免疫機能を壊すことにより全身の健康に害をなすというもの。
日々研究が進み、今後さらなる原因の解明が期待されます。
⑵歯周病との関連性がある全身疾患
①心臓疾患
歯周病菌の刺激により、動脈硬化を誘導する物質が出てプラーク(粥状の脂肪性沈着物)が血管壁に沈着することで血管を狭くしてしまい、それが剥がれてつまることにより狭心症・心筋梗塞を引き起こすことがあります。
歯周病の人は、約1.5〜2倍の罹患率と言われています。
②脳血管疾患
心臓疾患と同じ原理で脳の血管にプラークが詰まったり、他の部位から血の塊やプラークが飛んできて脳梗塞を引き起こします。
歯周病の人は、約2.8倍脳梗塞のリスクが高いと言われています。
③糖尿病
近年では歯周病と糖尿病は相互に悪影響を及ぼしあっていることがわかってきています。
歯周病になると糖尿病の症状が悪化したり、逆に歯周病の治療により糖尿病が改善する場合もあります。
出血や膿を出しているような歯周ポケットからは、炎症に関連した化学物質が血管を経由して体中に放出されています。
中等度以上の歯周ポケットが口の中全体にある場合、そのポケット表面積の合計は手のひらと同じ程度と考えられています。
歯ブラシをしていて少し出血するなくらいに感じていたものが、実は手のひらサイズの出血や膿が治療なしで放置されていると考えると、からだ全体からも無視できない問題であることが理解できると思います。
歯周ポケットから出て血管で運ばれた炎症関連の化学物質は、体のなかで血糖値を下げるインスリンを効きにくくします。
それにより糖尿病が発症・進行しやすくなります。
④低体重児出産
妊娠している女性が歯周病に罹患している場合、早産や低体重児になる可能性が指摘されています。
その危険率はタバコや飲酒などに比べてもはるかに高く7倍となっています。
妊娠中はつわりなど体調も不安定になり、ご自身での清掃も治療も難しい場合があります。
そのため、妊娠がわかってからではなく、その前から可能であればお口のケアもしていけるのがベストだと思います。
⑤誤嚥性肺炎
食事や飲み物などが、本来食道を通り胃に流れるところが、気管に入ってしまうことで起こる肺炎です。
高齢になり、むせて排出する機能が衰えていたり、全身麻酔での術後などに注意が必要です。
食物などと共に、口腔内の細菌が気管の方に入ってしまうため、口腔内の細菌(特に歯周病菌が原因のことが多い)を減らしておくことが大切になります。
⑥骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
骨粗鬆症とは、骨の代謝バランスが崩れ、骨を作る働きを破壊する働きが上回ることにより、骨が脆くなる状態です。
歯を支えている骨にも影響するため歯周病にも影響し、また炎症を引き起こす物質が作られて歯周炎の進行を加速すると考えられています。
⑦肥満・メタボリックシンドロームとの関連性
BMIが30以上の場合、歯周病の発症リスクは約8.6倍であり、糖尿病による発症リスクの2.3倍を大きく上回ります。
⑧アルツハイマー型認知症
脳には本来、血液脳関門というフィルターのような場所があり、不要な物質がますが、歯周病菌により増えた受容体によりアミロイドβという記憶障害を引き起こす物質を取り込みやすくしてしまい、アルツハイマー型認知症の発症に関与する可能性があります。
⑶まとめ
医療が発達し、平均寿命が伸びつつあります。
しかし、2021年の厚生労働省による資料では健康寿命と平均寿命は男性では約9年、女性では約12年のかい離があると報告されており、多くの高齢者は寿命が尽きるまでに、何らかの健康上の問題で日常生活が制限された期間を過ごしていることになります。
厚生労働省HPより
2019年の国民生活基礎調査では介護が必要になった原因の割合として、
第1位:認知症 17.6%
第2位:脳血管疾患(脳卒中)16.1%
第3位:高齢による衰弱:12.8%
となっています。
歯周病によるアルツハイマー型認知症だけでなく、歯を失い義歯を使用していない場合、認知症発症リスクは最大1.9倍となっており、間接的な認知症との関連性も疑われます。
そのため、認知症・脳血管疾患・心疾患・呼吸器疾患・糖尿病など、介護が必要となる疾患の発症のリスクに歯周病が大きく関わってくることがわかります。
症状が出る前に、若いうちから、もっと言うなれば小さい時からの意識づけが大切になってくるかもしれません。
将来の自分自身のために早めのケアをお勧めします!