コラム

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『インプラントのメインテナンス』〜長持ちさせるには〜

時間や費用、外科手術などを乗り越えてせっかく入れたインプラントを、出来れば本人も、私たち歯科医師も長く安定した状態を保ってほしいと願っています。

そのためにはインプラントという人工物の特殊性をしっかり理解し、適切なケアを行う必要があります。

 

⑴インプラント治療後の注意点

インプラントと天然の歯で最も違う部分は、バリア機能です。

天然歯の根っこの周りには、歯根膜と呼ばれるクッションのような働きをしてくれる組織があります。

 

<歯根膜の大切な働き>

歯根膜には主に2つの大きな働きがあります。

①細菌から守る

歯根膜には豊富な血管が存在し、バイ菌が侵入してきた際には体を守る免疫細胞が血管から出てきて、菌を防いでくれる作用があります。

 

②力を感知する

硬いものを噛んだ時に、痛みを感知して顎を開けようとする機構が歯根膜には備わっています。
そのため、歯に対して有害な力がかかりそうなときは本能的にストップがかかり、結果として歯を守る働きをします。

 

インプラントにはこの“歯根膜”という組織がありません。

それにより、細菌に対する抵抗性や、力のかかりすぎを感知する仕組みが備わっていないので、これらに対しては日々のケアと歯科医院でのケアがとても大切になってきます。

 

 

 

⑵日々のケア

インプラントを入れたけれど、痛くて噛めない、とれてきてしまったなどの方の多くは歯周病によるものです。

インプラントは主にチタンなどの金属でできているため、「虫歯によって金属の部分に穴が空いてくる」ということはありません。

しかし、インプラントは骨にネジのようなものをくっつけることにより機能するので、その支えている骨が炎症により減ってしまうとグラグラして痛くて噛めない状態になってしまいます。

 

特にインプラントはご自身の歯よりも菌に対する抵抗性がないため、歯周病に対して非常に弱いと言えます。

歯周病の一番の原因は歯垢(プラーク)と言われる、歯ブラシで落とすことができる柔らかい汚れです。

歯垢は長く口の中に停滞するほど、成熟して歯周病菌の棲家となっていくので、毎回の歯ブラシでしっかり除去していくことが大切です。

 

 

①歯ブラシの選び方

インプラント周囲のケアとして、歯ブラシを選ぶ際は普通の硬さものを選ぶと良いでしょう。

ご自身の歯とは別で、細かなケアができる方は柔らかめのインプラント専用の歯ブラシをピンポイントで使用していただくのも良いです。

 

②補助器具

そして、歯と歯の間は補助器具と言われるものが必須です。

歯茎と被せ物の境までしっかり汚れを落としていきたいので、できればアンワックスのフロス(ワックスでコーティングされていないもの)かスーパーフロスがおすすめです。

スーパーフロスはあまり聞かないかもしれませんが、フロスの一部にスポンジ状になっている部分があるので、汚れをごそっと絡め取ってくれます!

 

③歯磨き粉

歯磨き粉はフッ素入りをオススメします。

フッ素入り歯磨剤2016年にフッ素がインプラントを腐食させるという論文が出ましたが、それは日本では使用されていない高濃度(9000ppm以上)の歯磨剤を使用した場合であり、日本で使用されている高濃度歯磨剤は1450ppmのかなり低い濃度になります。

日本口腔衛生学会からも、インプラント患者へのフッ素入り歯磨剤の使用は推奨されています。

これは、日本で販売されている歯磨剤に含まれるフッ素濃度が海外のものと比べて低く、腐食のリスクが低いことだけでなく、それ以上に残っているご自身の歯を虫歯から守る効果が非常に有益であるためです。

 

<注意点>

歯磨き粉の中には、つぶつぶが含まれている物があります。
この顆粒がインプラントの周りの歯茎の中に停滞し、炎症を起こしたケースが報告されています。

そのため、つぶつぶが入っていないものを選択していただいた方が安心です。

 

 

⑶病院でのケア

また定期的に歯科医院でのメインテナンスも重要になってきます。
歯科医院で行うケアには以下のものがあります。

①歯茎の炎症のチェック

周りの歯茎が引き締まっているかどうか、触ると簡単に出血してしまう状態ではないかどうかを確認します。

歯周病菌は歯茎からの出血の中の鉄分を栄養源とするため、出血しやすい状態が続くと、周りの支えている骨が徐々に吸収してしまう恐れがあります。

②噛み合わせのチェック

力のかかりすぎは、インプラントの被せ物の脱離や破損につながります。

天然の歯は骨との間に歯根膜と言われるクッション部分が介在するのに対し、インプラントは直接骨と結合しているため、噛んだ時に沈み込む量が違います。

そのため、インプラントには残っている自身の歯よりも、少し弱く力が掛かるように噛み合わせを調整します。

 

③定期的なレントゲン撮影

骨の状態はレントゲンでなければわからないので、経年的に支えている骨の量が減っていないかを確認します。

歯茎の状態と合わせて、インプラント周囲炎と言われる歯周病の症状がないかを見ていきます。

 

 

⑷まとめ

インプラントにはお家での日々のケアも、病院での定期的なケアもどちらもとても大切なものになります。

入れたインプラントが長持ちするために、是非ご参考にいただければ幸いです。