もし明日、自分の歯が抜けたら・・・と想像したことはありますか?
歯周病はギネスブックで「世界で最も一般に蔓延している感染症」として認定されている疾患です。
何も問題なく食事ができていて、痛いところもないから歯医者にもしばらく罹っていないという方もいるかもしれません。
そういった方はもしかしたら知らず知らずのうちに歯周病が進行し、ある日いきなり歯が抜けてくる可能性もゼロではありません。
以前、雑誌『プレジデント』で行われた、55〜74歳の男女1000人へのアンケート調査で「後悔していることトップ20」では、なんと1位は「歯の定期検診を受ければよかった」というものでした。
後悔先に立たずとはこのことで、歯が失われてからいかに食事が美味しくしっかり噛んで食べられることが大切で幸せなことなのかが身に染みてわかるのですが、それまではその重要性がなかなかわからないものです。
8020運動など、年齢が上がっても歯を残すことの重要性が提言され、以前よりも歯の喪失防止が進み、歯の数が増えたことで歯周病に罹る歯の数も増えていると考えられます。
歯が抜けて、入れ歯になり初めて歯の大切さに気づくのでは手遅れです。そういった方をたくさん見てきて、是非そうなる前に歯周病の怖さをお伝えし、予防できればと思います。
⑴歯周病とは
歯周病(歯槽膿漏)には、歯肉病変と歯周炎があります。
大きな違いは“骨の吸収があるかないか”です。
①歯肉病変
歯肉病変は歯周炎の前段階と考えられています。
歯肉病変では骨の吸収は見られません。
<特徴>
・赤色の歯茎
・歯と歯の間の歯肉が丸みを帯びて膨らんでいる
・ブラッシングで出血する
・腫れた歯と歯肉との間に歯垢が溜まり、悪化する
近年では学校の歯科検診でも歯肉炎のチェック項目が取り入れられています。
=子供の時から気をつけていかないといけません!
②歯周炎
歯周炎は炎症により歯を支えている骨の吸収が始まった状態です。
進行の程度から、
・ステージⅠ:軽度歯周炎
・ステージⅡ:中等度歯周炎
・ステージⅢ:さらなる歯の喪失の可能性を伴う重度歯周炎
・ステージⅣ:歯列喪失の可能性を伴う重度歯周炎
に分類されます。
<特徴>
・赤紫色の歯茎
・ブラッシングで出血や膿が出る
・歯と歯の間が広がり、食べ物が詰まりやすくなる
・歯茎が退縮して歯が長く見える
・歯周ポケットが深くなり、歯を支えている骨が溶ける
・歯の揺れが出始める
・口臭がする
⑵原因と治療
お掃除も1日1回しかせず、歯石(プラークが石灰化して硬くなったもの)もたくさんついているけど、歯周炎にはなっていない方もいます。
では、歯周炎になる人とならない人の違いは何か?
というと、他の感染症などでも言える「生体の抵抗力と原因菌のバランス」が崩れたディスバイオーシスという状態になると発症すると言われています。
腸内細菌でも善玉菌と悪玉菌というのをよく耳にすると思いますが、お口の中も同様に良い菌と悪い菌が混在しています。
それが、ストレスや清掃不良などの要因が合わさることで、バランスが崩れ悪い菌が増え強くなってしまうと発症に至ります。
①歯肉病変
歯肉病変の中にはプラーク(白くネバネバした、歯に付着した細菌が繁殖したかたまり)が原因で起こるプラーク性歯肉炎の他に、ウイルスやアレルギーなどによる歯肉病変や高血圧薬などで起こる歯肉増殖なども含まれます。
主であるプラーク性歯肉炎は、歯ブラシの状態が大きく影響します。
合わない詰め物や被せ物が入っていると、細菌の温床になり悪化する要因となります。
治療としては、
・ブラッシング
・フロスなどの補助器具の使用
清掃効果を上げると、治療の効果も出やすくなります。
・歯石(汚れが石灰化したもの)の除去
歯石の表面はざらざらしており新たなプラークがつきやすくなります。
・合っていない詰め物・被せ物のやり変え
段差は菌から見るととても住みやすい場所です。適合の良いものに交換することで、汚れが溜まりづらくなります。
などが挙げられます。
②歯周炎
歯肉炎が進行していくと歯周炎となり、歯の周りの組織が破壊されていきます。
その結果、歯にくっついていた歯茎が剥がれ、溝が深い状態(歯周ポケット)となり、歯ブラシが届かなくなり、どんどん歯周病菌が増えやすい状態へと悪化していきます。
治療としては
歯肉病変の治療内容に加え、
・噛み合わせの確認
力がかかりすぎている部分は急速に歯周炎が進行するため、必要な部位は調整を行います。
・SRP(スケーリング、ルートプレーニング)
歯茎の中についた歯石の除去
・固定
歯の揺れが強いと治癒がしづらくなるため、両隣の歯と一時的に材料でくっつけて揺れないようにします
・歯ぎしり治療
日中や夜間の食いしばりや歯ぎしりは、歯に非常に負担となり、歯周組織を破壊する力となります。必要に応じて日中の意識づけや、夜間のマウスピースの装着を行います。
などが挙げられます。
⑶歯周病を悪化しうるもの
①先天的なもの
・遺伝的要因
Down症候群やPapillon-Lefevre症候群、Chediak-Higashi症候群などのいくつか疾患では歯周病の重篤度が高いことで知られています。
・年齢・性別
低年齢層から歯周炎の症状が見られるものや、進行が早いものは予後が不良になります。
また、性ホルモンの増加で、特定の菌の増加が起こり妊娠・思春期性歯肉炎が生じたり、閉経後の女性ではエストロゲンの低下によって歯周炎の悪化が生じる可能性があります。
・人種民族差
口腔細菌叢や食習慣などにより人種でも差異があります。
②後天的なもの
・糖尿病
糖尿病は免疫の低下や壊れた組織の治癒力が低下するため、歯周病の発症リスクは2.32倍となります。
・肥満
特にBMIが30以上になると発症リスクが8.6倍となります。
・喫煙
非喫煙者に比べ、2〜8倍の発症率であり、治療による歯茎の治癒の反応を低下させてしまいます。
・常用薬
歯周病は結果として骨代謝に関連するため、それに影響するいくつかの薬(免疫抑制薬や骨代謝関連薬、副腎皮質ステロイドなど)は歯周病にも影響を与えます。
その他、ストレスやHIV感染などが挙げられます。
⑷まとめ
難しい内容になってしまいましたが、歯周病は初期の自覚症状として歯茎からの出血などがありますが、痛みがなく進行していき、病状が進行してから急に腫れたり痛みが出たりし発見されることが多いです。
一度進行してしまい水平に減ってしまった骨は、治療をしても戻す事はできません。
そのため、何もない時から定期的に検診を受け、ご自身の状態をわかって予防していくことがとても大切になります。
最近検診を受けていないという方は、ぜひお近くの歯科医院での検診をお勧めします!